私たちは待機していますー福島原発行動隊からのアピール
福島原発行動隊は、福島第一原発事故の収束作業への参加を志願する、退役技術者・技能者を中心とするボランティア団体で、2011年4月に発足しました。当初は「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」と称しましたが、7月に法人化するに当たり「福島原発行動隊」と改めました。現在は約680名の60歳以上を原則とする行動隊員と、約1600名の賛助会員を擁しており、2012年4月から公益社団法人になりました。
福島原発行動隊(以下行動隊と略記)の目的は、原発事故の収束作業に当たる若い世代の放射能被曝を軽減するため、被曝の害が相対的に少ない高齢者が、長年培った経験と能力を活用し、現場におもむいて行動することです。そのさい原発の是非についての隊員個々の見解はいっさい問いません。この簡単明瞭な趣旨に賛同こそすれ、異を唱える声はほとんど聞かれないのですが、行動隊が実際に事故現場で作業に当たる局面には、いまだ至っておりません。
後日すこしずつ明らかになった情報によれば、事故発生直後の危機的状況に直面していたとき、現場では40歳以上の「決死隊」がベント操作に当たり、菅首相は現場からの撤退を図る東電幹部を前に、「60歳以上が現地に行けばよい」と述べたそうです。これは非常事態における苦渋の発想ですが、まさに行動隊結成の原点でもあり、私たちはその旨を、いくつかの提案を添えて政府と東電に申し入れ、出動の要請にそなえて待機しました。いまだに要請がないのは、非常事態を脱し、いわゆる労働適齢期の作業員だけでも、被曝からの安全を確保したうえで、事故を収束できるからだとすれば、まことに喜ぶべきことであり、老兵部隊は安んじて解散し、若い人びとの健闘を見守るでしょう。
しかし行動隊はこれからも待機を続けます。なぜならば、東電が公開している事故処理過程の情報を見るだけでも、けっして楽観を許さないことは明らかであり、いつ非常事態が生じてもおかしくない状況が依然として続いているからです。さらに廃炉までの工程においても、たとえば溶け落ちた核燃料デブリの取り出しなど、被曝の危険が著しく増大する事態が確実に予測されます。行動隊の存在意義と出動の可能性は残念ながら長期にわたり、それも10年の単位を重ねるスパンで続くものと思われます。
この長いスパンのうちに、60歳以上で構成する現有隊員はしだいに老衰し、あるいは死亡して、つぎの世代に引き継がれるでしょう。危機が終息するまで行動隊は厳として存在し、事故現場での作業という本来の目標を射程に入れた周辺活動(現在は放射線モニタリングとその研修、除染等の被災地支援と交流、原発事故関連情報の収集・分析等を行なっている)によって研鑽と訓練を重ねながら、本格的な出動の機にそなえるでしょう。
行動隊が存在し続けることは、緊急時のための予備隊という実践的な役割に加え、「原発事故収束に自発的に参加する国民意識の涵養を図る事業」(行動隊定款第5条)に資する精神的、あるいは倫理的な意義もあると信じます。「若者の被曝を老人が肩代わりする」という旗幟を鮮明にした集団がつねに待機していることが、未曾有の国難に立ち向かう人びとの意志をいささかなりとも象徴し、この国に新たな精神風土と文化を生みだすことを願いつつ、各方面からのご支援を切に期待して、私たちは年相応に悠然と、かつ毅然として、いま私たちがなしうる活動を続けます。
2012年4月1日 公益社団法人福島原発行動隊