今年初夏のころ、東大卒の旧い友人からのメールで「行動隊」の存在を知りました。まだ「福島原発暴発阻止行動プロジェクト」と、いかにも理系男子の付けそうな明快な名前でした。メールに添付の「集会報告」を読んで、ビーン!と来ました。 呼びかけ人の山田恭暉さんは、自分と同世代。これぞ人生のベテランのやるべき仕事だ、カッコいい! と、思いました。
といっても、自分は原子力も科学もからっきし無知な人間です。
かつて新聞記者時代に実は原発の現地取材(いや、見物ですね)をしたこともあるのですが、安全に関して質問するとデータから図表から画像から資料を総動員して立て板に水でその安全性・経済性について説明され、元々が理系への劣等感もあって、反論どころかただ頷くだけだったことをほろ苦く思い出します。だから、原発に関する知見も経験も豊富な退役ベテランの方々の心意気に、諸手を挙げて賛同した次第です。
「行動隊」のことが海外メディアで盛んに報道されているのは、危いが重要な使命を、影響がより深刻な若い世代に代わって退職世代のベテランが引き受けようというヒューマンな動機が、国や地域の違いを越えて共感を呼んだのだと思います。その一方で、日本の大手マスコミの反応の鈍さは、どうしたことでしょうか。
実際の活動は、政府・東電側に申し入れてから何カ月にもなるのに、なかなかアヒルの水掻きが進まないようです。しかし、今後何十年にもわたる原発事故の後始末は、放射能がある限り地味な努力と忍耐を要する負の遺産となることは明らかです。経済のことも大事ですが、原発の危険と引き換えにはできません。「想定外」とは「間違い」ということです。次世代に危険や負担を順送りせずに、間違いの後始末も将来への新しいエネルギーへの展望も、いま、私たちの世代ができることを精一杯力を合わせて果たしてゆくべきでしょう。かわいい子供や孫の世代に、まず健康な命と生活を保証すること。これが基本です。その上で政治経済や社会・文化の健全な発展につながってほしい。おばあちゃん世代の私は、そう願っています。
福島原発行動隊は、高齢者が社会福祉の対象としての存在にとどまらず、若い世代と補い合って社会のために力を尽くすとてもよいモデルでもあります。高齢者のパワーの積極的な活用という点でも、新しい時代の地平を拓く可能性は大きい。高齢者ならではのカッコよさって、まだまだあるんですね。
(まつもとゆみこ。ジャーナリスト/映画評論家)